よもやまビール~ミステリーとグルメと4つのビールタップ
昨今のクラフトビールブームは、街を見渡せば一目瞭然だろう。取り扱う飲食店が続々と増え、ビアフェスは季節を問わず盛り上がり、スーパーやコンビニに陳列されるビールの種類も多種多様だ。
私もかれこれ半年ほど前から本格的に沼にはまっている。この春に職場を異動になって、同僚たちの前で挨拶をした時も「クラフトビールにはまっています」と自己紹介をしたほどだ。
単に晩酌のお供にとどまらず、ビールを求めて出かけるような今の楽しみ方に至るきっかけは何だったか――思い返してみると、とある小説が脳裏に浮かぶ。
北森鴻の「香菜里屋シリーズ」、連作短編ミステリーである。
元は2001年発表の作品だが、文庫の新装版として2021年に刊行しており、toi8さんの装画で目に留まった。ミステリー大好き、グルメ漫画やグルメ小説も大好きなので、これはと思い、一作目の『花の下にて春死なむ』を手に取った。
話の舞台は主に三軒茶屋にある香菜里屋というビアバーである。その店主・工藤が、客たちの話をカウンター越しに聞きながら、様々な謎を紐解いていく。工藤が積極的に事件に対して何かを働きかけることはほとんどなく、いわばアームチェア・ディティクティブとしての役割を担う。
ミステリーとしての面白さはもちろん素晴らしいのでぜひとも実際に読んでいただくとして、この作品はビールと料理の描写が突出して上手い、否、旨いのだ。
『手羽のつけ焼きとはずいぶんとシンプルな。あくまでもこの店にしては、と思ったが、飴色の肉にかぶりついたとたん、仲河の舌は幸福な裏切りに遇った。ふんだんに赤ワインが使われているらしい。幾種類かの香辛料の味と渋み、それに淡い甘みが肉そのものにしみている。味付けもさることながら、どうやら調理方法に秘密があるようだ。
「こいつは……アルコールがすすんでしょうがないね」
「お口に合いましたか」
我ながら品が良くないとは思ったが、それこそ骨までしゃぶり尽くすようにきれいに食べ終え、度数のやや高めのビールで口内を洗い流すと、あとはただひたすらに幸福な印象のみが残った。』(北森鴻『蛍坂』より)
流れるような言葉たちから、まるで肉汁が滴り落ち、香りがとろりと漂ってくるかのようだ。料理に寄り添うビールの役割もまた、これ以上ないほど的確に表現されている。きっと手羽に似た濃い色で、スパイスとモルトの旨味が重なり合いながら喉を流れていくのだろう。ビールそのものの具体的な描写は小説にはほぼないが、私だったらこの手羽のつけ焼きにはアンバーラガーを合わせたい。琥珀色でしっかりと苦みがありつつ、のど越しが良いものが欲しい。
もしくは、先日飲んだ秋田の醸造所・ブリュッコリーのフラックスというビールが合いそうだ。スモークアンバーエールというスタイルで、スパイスカレーと抜群に相性が良かった。きっと手羽の濃い味やスパイスの香りとも絡み合いながら、意外と軽やかな後味で脂をすっきりとさせてくれるだろう。
旨い店には人が集まり、ほどよいアルコールには人の心も解け、カウンターに立つマスターの穏やかな佇まいに、常連と一見の会話すら自然に生まれる。こんな店が実際にあったなら、と読むたびに憧れてしまう。
さてこの香菜里屋には常時、度数の異なる4種類のビールが置かれているという設定になっている。一番度数の高いものは12度ほどで、ロックで提供される。これは私にとって衝撃だった。
ビールってそんなに種類があるものなんだ。ロックで飲むタイプなんてあるんだ。
それまでも私にとって酒といえばビールだった。大学時代、真夏の炎天下で芝居の大道具作りに励み、作業後の飲み会でグイっと飲み干したスーパードライがガツンとうまかった。以来、酒の場では基本的に最初から最後まで「生中」で通してしまうようになった。あの苦みや、後味の切れ、喉から全身に染みわたっていく感覚が何度飲んでもたまらない。
つまりビールといえばスーパードライで、せいぜいキリンやサッポロくらいの違いしか知らずに(目に入らずに)いた私にとっては、香菜里屋の4つのビールタップがそれこそ次元の違う文化のように思えた。
しかも提供するビールによってグラスを変える。料理を工夫する。そんなに繊細なバリエーションのある楽しみ方ができるものだとは。
スーパードライ以外のビールに全く触れてこなかったのかといえばそうでもない。黒ビールや白ビールの存在は知っていたし、キリンシティではハーフ&ハーフがお気に入りだった。
ただ、肝心の「飲み手」である私に、知識と覚悟がなかった。覚悟というのは、無限に広がるビールの味わいとペアリングに向き合う心構えのことである。香菜里屋シリーズに描かれていたのは、あまりにも広く深いビールの世界への入り口であり、楽しみ方の素晴らしいお手本だった。
なにも知らなくたって、ビールはおいしい。だが「飲み手」が楽しみ方を覚えて能動的になると、抜群に、圧倒的に面白くなってしまうのだ。
なるほど、ビールにいろんな種類があって、料理との合わせ方も考えるといいらしい。「香菜里屋シリーズ」を読むにつれ、だんだんとスーパーやコンビニのビールコーナーで変わり種が気になり始めた。
いわれてみれば「よなよなエール」や「水曜日のネコ」は多分クラフトビールで、学生時代にサークル仲間が好きで飲んでいた気がするけど、スーパードライとは全然違う味だ。そもそも「エール」と「ビール」って何が違うんだ?こういうのがもしかしてめちゃくちゃあるのか……?
こうして私の舌先に芽生えた興味を、ぐっとリアルに結び付けてくれた作品がもう一つある。次の記事で紹介したいと思う。
これ以上長く書いていると、ビールの飲み頃を逃してしまいそうだ。
I wish
7月に入った。一年の半分が終わった。年々早くなっていくような時間の進みかたに戸惑う。
2023年の上半期を思い返すと、久々にマスクを外して生活ができるようになった喜びが大きい。もちろん、状況によっては着用するのでマスクケースを携帯するようにしているし、引き続き手洗いうがいなどの感染症対策は欠かさず行っている。だがやはりダイレクトに空気が吸える心地よさは格別だし、夏を前にして肌荒れの心配が減ったのはとてもありがたい。
ここ数年は、一年のはじめに「やりたいことリスト」を作るのが個人的きまりになっている。堅苦しい目標ではなく、なるべく不要不急のものを考えるのがミソだ。例えば予定のない休日に、リストに立ち返って消化を試みると、なかなかに充実した時間を過ごせたりする。
今回は上半期の総括がてら、リストの内容を紹介していこうと思う。
まず、今年のラインナップは次のようになっている。
①旅行
②寝室をかわいくする
③ホールケーキをひとりで一気に食べる
④急須で緑茶を飲む
⑤絵を描く(ツイッターのアイコンを変える)
⑥自転車整備をする
⑦防災の備蓄を見直す
⑧推しグループ以外のライブに行く
⑨宅トレ環境を充実させる
⑩初めてのファッションアイテムを取り入れる
現時点では、①③④⑤⑥⑩の6割達成という状況になっている。例年、年末時点で6割程度なのでかなり好調である。
春に行った奈良と京都、そして初夏の秩父への旅は、文化財とクラフトビールに存分に溺れて、めちゃくちゃ楽しかった。一人旅も友人との旅もそれぞれに満喫でき、幸せな時間だった。
一人暮らしはもう長いのに急須というものがなく、いただきものの茶葉がキッチンの隅に眠ったままだったが、ハリオの急須を見つけて即決した。ガラス製なので一緒に使う湯呑を選ばないし、食洗機が使えるので手入れが非常に楽なところが気に入っている。
パソコンを買い替え、クリスタを導入したのでいまは絵を描くリハビリ中だ。自転車は近所のサイクルショップでメンテナンスをし、空気入れも購入したので快適に使うことができるようになった。
初めてのファッションアイテムとして実際に取り入れたのは指輪である。セットで数千円程度の安価なものの中で、なるべくチープに見えないものを吟味して購入した。手洗いの時に少し面倒なことを除けば、意外なくらい華やかに見えるので素敵だ。
そして今回特に取り上げて書きたいのは、「ホールケーキをひとりで一気に食べる」というお題だ。
まあるいホールケーキをひとり占め。多くの人が夢見るシチュエーションではないだろうか。ゴールデンウィークの一日を使って、私はこれを実現することに決めた。
まずはケーキの選定。きっと一生に一度だろうから多少高くてもいいと思い、デパ地下を2周くらいした。決めたのはGRAMERCY NEWYORKのいちごショートケーキ、4号サイズで3,456円だった。(ちなみにケーキの号数は直径を3で割った数字になるので、4号というと直径12センチ程度のものである。)
つやつやとしたいちごが、真っ白なクリームの上で踊るように乗せられて、金箔もちらり。見ているだけで気分を盛り上げてくれるその姿。これを独占できるのだと思うと高揚感で胸がいっぱいになった。
大切に抱えて家に持ち帰り、準備にかかる。きっと途中でしょっぱいものも欲しくなるだろうと踏んで、鳥ハムやクラッカー、ミニトマト、玉ねぎのマリネを用意。徹底的に自分を甘やかすためにスパークリングのロゼワインもグラスに注いだ。同時に、なるべく罪悪感を軽くするため、その日は朝食を極力減らしていた。おなかもぺこぺこのお昼過ぎ、万全な体制である。
写真を撮り、いざ実食。
思いっきりおおきなひと口目を、ケーキ用ではない通常サイズのフォークでとり、ほおばる。
おいしい。生クリームがかろやかな甘さで、甘酸っぱいいちごと最高にあう。スポンジのふかふかも最高だ。ぱくぱくと進んでしまうが、普通ならもう自分の分がなくなってしまうよという頃合いでもまだたくさん残っている!
ロゼワインで幸せをおなかに流し込みながら、あっという間に3分の1まで食べてしまった。これは余裕なのでは?このサイズを楽勝で食べてしまうとしたら、さすがに自分の食欲旺盛すぎてちょっと心配になるな……と思ったのもつかの間。
半分食べ進めたところで、手が止まった。
この展開が信じられず愕然とした。静かにフォークを置く。本当に本当においしいのに、あんなにおなかもすいていたのに、急にキャパシティを超えてしまったようだった。
だがそれも想定内だったので、傍らに控えていたしょっぱいものたちをつまむ。甘味で飽和していた味覚が叩き起こされて返ってきた。そしてまたケーキで口と脳をいっぱいにする。どんなに時間が経過しても、せつないくらいケーキはおいしい。
急激にペースを落としながらも、何とか完食。かかった時間は1時間8分だった。
とにかく、あの丸ごとを自分だけでという幸福感がたまらなかったし、途中の「まだある!」という喜びも、にまにましてしまうくらいよかった。
一生に一度でいいと思っていたが、食べ終わってしばらくしてみると、チョコケーキやロールケーキでもやってみたいなあなどと思う自分がいる。あまりにも贅沢な話だと我ながら少し呆れてしまうけれど。
下半期も、リスト残りの4つを消化しながら楽しく過ごしていきたい。こんなケーキの暴食なんてしておきながらも、現在ダイエットの真っ最中なので、できれば宅トレ環境の充実をはかっていきたいが、あまりお金に余裕がないのでヨガマット一つ買おうにも唸ってしまう。
日常の買い物と同時進行が可能な、防災の備蓄の見直しをしていこうか。ローリングストックや、水の買い足しなど、計画してみようと思う。
絶対からだ資本主義
高校時代は携帯サイト全盛期で、私も例に洩れず、インターネット上に小さな自分の城を持っていた。
二次創作小説やイラスト、写真を載せたりもしたが、そういえばほぼ毎日ブログを更新していたと思う。よく書くネタがあったな、マメだったな。(実際、書いていた内容は大したことではなかったはずだ。定期テストのこととか、好きな漫画のこととか。)
ブログとは別に、つぶやきを載せているページもあった。自分しかいないツイッターのホーム画面のような。大学合格の喜びも、真っ先にそこに書きなぐったのを覚えている。
今はブログというと、ここくらいである。日記のように毎日更新してみようかとふと思ったが、そこまで気力は続くかというと自信はない。いよいよツイッターが使えなくなったらそうするかもしれない。自分の脳内を書き散らして放流する場所は絶対に必要だ。
前回の記事の最後で、次はクラフトビールについて書くと記したが、ツイッターで気まぐれに次回記事のアンケートを取ったところ、意外にもがん検診の顛末に票が集まった。(そもそもそんなアンケートに応じてくれる人が10人もいてくださることに感動しました。本当にありがとうございます。)
なお候補にはクラフトビールとがん検診のほか、ファフナーの感想と今年やりたいことリストがあり、それらもいずれ書いていくのでぜひ読んでいただけたらと思う。
というわけで、がん検診の顛末。
そもそも話の発端は昨年11月に遡る。いや、4月といったほうが正しいか。
新年度に入ってしばらくのころ、住んでいる自治体から子宮頸がん検診のお知らせが届いたのである。
30代以上で子宮頸がんのリスクが格段に上がるというのは一応知っていた。
薄桃色のはがきをよく読んでみる。市の補助によって、1,000円で検査が受けられるという。対象は30代以上の女性で、生まれた月の偶数・奇数によって隔年で順番が来る仕組みだった。(もちろん制度は自治体によって異なると思うのでご留意いただきたい。)
自分もいよいよそういう年なのだと、自治体からのお知らせで自覚させられる。市民サービスが用意されている安心感と、老いに対する複雑な気持ちがないまぜになった。
一人暮らしの身で、健康管理は最重要課題だ。不調を感じた時の対処はもちろんだが、定期的なチェックを怠らないのもまた大切だろう。
よし、そのうち行こう。
そう思って気が付くと半年が経った。時の流れの速さは凄まじい。
11月、無事に32歳の誕生日を迎えた。
またひとつ大きくなれてよかったよかった、そういえば子宮頸がん検診受けなきゃなーーと思い出して例のはがきを引っ張り出すと、補助が効く期間は限られていることに気づく。ちょうど11月末が期限だった。
こうしてはいられないと、重い腰を上げて最寄りの婦人科へ行った。受付ではがきを出し、検診の希望を伝える。予想以上に混雑していて、2時間は待った。本でも持ってくればよかったと後悔した。その割に、診察時間は短い。病院とはそういうものである。
婦人科に行ったこと自体は何度かあった。数年前になるが、カンジダを発症した時だった。初めての婦人科は不安だったし、やはりというか、婦人科検診台への抵抗感が少なからずあった。そりゃ、当然、脚を開いて見せる以外に方法がないのはわかるので、もはや自分との闘いだった。
今回もあれだよなあ、と憂鬱になりそうになるのを殺しながら順番を待つ。必要なことをちゃんとやろうとしている自分えらいよ、かっこいいよ。先生もプロなんだから安心してまな板の上の鯛になりな。繰り返し念じた。
実際、検診はサクッと終わったのだが、その際にポリープが見つかった。
また?と驚く。カンジダで受診したときも、同時にポリープを取った経験があったからだ。
曰く、何度でもできるときはできるらしい。今回は検診だけだからとポリープは後日処置することになった。
検診の結果については直接聞くか郵送するかを選ぶことができた。特に問題もないだろうと思ったので、郵送をお願いした。
そして2週間後。果たして封書が届いた。
仕事に追われて検診を受けたことも早速忘れ去っていたので、おお、そういえば受けたっけとなんの気なしに開封。
目に飛び込んできた情報に首を傾げた。
『要精密検査』
まさかの……?
『中等度異形成』
……とは、一体?
初めて聞く言葉に少なからず動揺して、よくないとは思いながらもggった(がんに限らず病気のことを素人が適当に調べてもろくなことがない)。基礎知識がないせいで、何がどういう状況なのかは、わかるようで全然わからなかった。
それから民間の医療保険の加入状況を確認した。がんだったらどんな保障きくんだっけ、とりあえず入院したら何万円かもらえるんだっけ?
まだ正式にがんと宣告されたわけではないことくらいはわかるので、半端にうっすらとした不安に襲われながらも、とにかく次の休みに、検診を受けた病院へ再検査に向かった。
さほど待たずに診察室に入れたが、入って即、「紹介状を書くね」と言われた。
「中等度異形成って、すぐに治療とかの話じゃないんだけど、もっと大きな病院で再検査したほうがいいから」
普通じゃないっぽいのにすぐに治療じゃないってどういうこと?!混乱して漏れそうになる言葉はひとまず飲み込んで、うなずく。
「ポリープは行った先で取ってもらいな。今やると出血しちゃって診づらくなるから」
「わかりました」
自分の体の微妙な状態を受け止めきれずにもやもやしながらも、受け取った招待状を握りしめ、その足で隣町の病院へ向かった。
今度は数時間待った末に、紹介状の内容を確認した医師と対面する。最初の検診の時と同じように検体を採取し、同時にポリープを切除してもらった。
こちらの気を紛らわすためか、施術の間に声をかけられる。
「子宮頸がん検診は今回が初めて?」
「はい」
「初めてで要精密になっちゃったのかあ」
「はい……」
「なんか変だなーって思うことなかった?」
「言われてみればあったかもしれないです……」
「そっかぁ」
医師の声は努めて穏やかに聞こえるようにしているように思えた。
そう、言われてみれば変だなと思うことが、少し。生理周期は安定しているほうなのに、妙なタイミングで出血があったりとか。
でもそれは、今になって思えばポリープのせいだったのだ。相当な大きさのものが摘出されたらしい。直接見てはいないが、医師の言葉を聞く限り、かなりひどかったようだ。
「検査結果は2週間後に出るからね」
またお預けなのか。当然のこととはいえ、この不安を抱えたまま過ごすのが少しつらかった。
そして2週間後。
結果は問題なしだった。
なかなか理解が追い付かないので、改めて状況の説明をお願いする。
詳しい話は、私自身が医師ではないのでブログに尤もらしく書くことは避けるとして、つまり「中等度異形成」というのは細胞ががんになる手前のグレかけた状況らしい。
放っておくとがん化するかもしれないので、監視して、もし悪化したらすぐに処置できるように構えておくのだそうだ。
精密検査ではなく、比較的簡単な検査を何度か繰り返す必要があるらしい。当面は2~3か月に一度。安定していれば半年に一度。
話を聞いてまず心配になったのは検査代だった。精算してみたところ、検査するのと結果を聞くを合わせて、一回当たり2,000円程度になった。
自分の状況を理解するのに私は一度の説明では足りなくて、2度目の検査(つまり最初の検診の約半年後)にも同じような解説をお願いした。そこでようやく自ら質問もできた(それまでは何が疑問なのかすらまとまらなかった)。
まず日常で気を付けるべきことを聞いたところ、特になかった。
「強いて言うなら、面倒くさがって定期検査に来なくなることが一番まずいんだ。目を離した隙にがんが進行しちゃうっていうのが結構あるから。ちゃんと病院に来てくれれば問題ないよ」
次に、ワクチン接種の注意点を訊ねた。というのも、精密検査の後にインフルエンザのワクチン接種を受けて、問診票にどう書いたものか迷ったからだ。私は今、健康と言っていいのか?
これについても医師は特に気にすることはないとのことだった。
「内科の先生が見てもピンとこないと思う。特に気にせずワクチン受けて大丈夫だよ」
そういうものなんだ。
だとするとーー私はいよいよ自分の状況がわからなくなった。自分の体で異変が起きているらしいのに、やれることがない。診断を見た時の衝撃や不安な気持ちに対して、その後の対応が地味というか、不釣り合いな気がしたのだ。のうのうとしてていいのか?そうこうしている間に本当にがんになってしまうんじゃないか?という焦り。
でも、結局は医者を信じるしかない。
特に指名せずに通院していたので、毎回診てくれる先生は違う方だったが、幸い皆とても親切で優しかった。先生たちの言うことをきちんと聞いていればまず大丈夫なのだろうと考える。暗い気持ちに振り回されたくなかった。
最終的に、検査は、最初の精密も含めて全3ターンで終了した。
最後の診察で医師曰く
「あのポリープが異形成だったんだろう、ってこと。摘出できたから、他のところは問題ない。今後はまた2年に1回の検診受けて、何かあったら来てね」
とのことだった。
先述の通り、出だしのころは次第に間隔を広げて検査を続けていくような説明を受けていたし、長期戦を覚悟していたので、なんだか拍子抜けだった。
念のため、エコー検査もやってもらった。子宮頸がんの検査では及ばないところも直接診てもらうことができる。
「うん、大丈夫ですね」
ほっと胸を撫で下ろす。
こうして私の婦人科通いは無事卒業となった。
これは医師に直接言われたわけではないが、私の場合、ポリープができやすい(少なくとも2度の前科がある)ことを自覚しておかなければならないのかもしれない。子宮頸がん検診で見つけてもらわなければ、あのポリープがさらに肥大化して、それこそ取り返しのつかない悪性の何かになっていた可能性があるのだ。
私は女性の体に生まれておきながら女性特有の症状についてまだ知らないことが多いし、そもそも自分のことなのに無頓着になりがちでもある。悪い癖だ。
些細なことであっても、なんか変だと思ったらスルーしない。これがなにより重要なのだろうと、肝に銘じる機会になった。
これを読んでいる方も、どうか、ご自愛ください。ただでさえままならない人生、できるところはなるべくコントロールしていこう。
まずは自治体のホームページなどで、ぜひ、使える制度のご確認を!
怒涛の日々と桜吹雪と
パソコンを新調した。
これまではNECのノートパソコンを使っていた。確か卒論も書いた気がするので(記憶があいまいだが)10年程度は使用していたはず。大往生である。
新しい愛機はsurfaceのlaptop4。画面はこれまでよりひと回り小さいものの、当然のことながら性能は格段に上がっており、使用感も上々である。本当はタブレットにもなるタイプが欲しかったのだが、そこは予算の関係で妥協した。それでも、画面に直接ペンで干渉できるのは思った以上に快適だし、楽しい。
顔認証があるおかげで、端末にログインするのに手を動かさなくてよいのがまず最高である。10年の進化、すさまじい。
キーボードに慣れるためにも久々にブログでも書こうか、とはてなのページを開いた。あまりにも久々で、ここではログインをことごとく弾かれ、パスワードを再設定するところから始まった。
さてどれくらいぶりなのかというと、前回記事が2021年11月14日。ファフナーTHE BEYONDの完結について書いている。これはひどい。全国5億人の読者に対して申し訳ない。
この1年半の間に、ご存知の通りファフナーはBEHIND THE LINEが公開され、私は新しい家で2度の桜を経験、クラフトビールにはまり、ひとつ芝居をやって、職場を異動になった。
人事異動の渦中に立たされるのは実に6年ぶりで、ようやく、という気持ちが強かった。昨年も期待していたが辞令が出ず、予想以上にショックだったのだ。同僚には恵まれていたものの、仕事内容が重く、これ以上はとても耐えられないと思っていたところだった。
内示の日、課長に呼び出され、言い渡された行先は、思ってもみなかった部署だった。異動希望先としても一度も書いた覚えがないので、私のキャリア希望云々よりも、他との調整の結果だろうと思う。丁寧な労いの言葉を前置きにして、少しもったいぶって告げられた課名。まさに「鳩が豆鉄砲を食らったような」顔をしてしまった。
そこから実際の異動までは10日ほどしかない。出勤日でいうともっと少ない。引継ぎは間に合うはずもなく、今も続いている。
頻繁に行き来するのはわかっていたことなので、あまり寂しくもならないかなと思いきや、卒業の日の挨拶ではやはり少し泣いてしまった。たくさんの同僚たちが個別に声をかけに来てくれて、本当に恵まれていたことを実感した。
余韻を味わう間もなく、異動先での新たな勉強も始まる。まったく触ったことのない仕事で、取り組み方も経験がなく、すべてが新鮮である。人数が少ない割に内容は多岐にわたり、仕事は基本的に2人1組で行うようだ。外回りも多く、仕事用のパンツがあと3着は欲しい。
幸運なことに、相方は(たった数日でもわかるくらい)非常に優秀な方で、人格者でもあり、私はただひたすら学ばせていただこうという気持ちでいる。少しでも早く、役に立てるようになりたいと思う。
思いのほか真面目な内容になってしまったので、次は最近の激熱ジャンル・クラフトビールについて書きたい。
そう、新しい部署での唯一ほんの少しだけ残念なポイントは、どうやら相方はお酒が飲めないらしいということだ。
その蒼を貫け
蒼穹のファフナーTHE BEYONDが完結した。
私は無印の16話からリアルタイム視聴していた17年弱選手なので、こうしてまたひとつの節目を迎えたことは感慨深い。
既にTwitterでネタバレしながら感想を呟いているのだが、ある程度まとまった文章で気持ちを残したいと思い、ブログをしたためている。
最初に断っておくが、EXODUSからの情報量の多さに全然ついていけてないし、BEYOND自体もろくに咀嚼できていないと思う。あくまで私の個人の感想なので、誤りなどがあっても許してほしい。また、書いているのは3回視聴した後の時点なので、解釈もまた変わるかもしれない。
まずBEYONDを観終えて一番に、
「一騎が予想以上に″人間″として最終話を迎えられて本当に良かったな」
と思った。
もちろん、もはや人間としての存在を超えたエレメントではあるのだけど、最終話にはその佇まいが実に穏やかで、雰囲気は暖かく、「笑顔がやたらと可愛い」一騎がそこにいた。
私はBEYONDで、あまりにもフェストゥムっぽい一騎の立ち振る舞いにかなりショックを受けていた。急に消えるし金色に光るし。それこそ、最終話のこそうしとのバトルで「俺を同化しろ」と言った時、彼は「真壁一騎」ではなく「マークアレス」だったと思う。平敦盛が熊谷二郎直実に追い詰められて「ただ、とくとく首を取れ」と言うような感覚でありながら、まさしくフェストゥムの理論で、「俺を同化しろ」と言っていた。
でも私は、真壁一騎にはあくまでも人間として「死んで」欲しいと思っていた。これまでの経緯からして仕方ないとはいえ、一騎に人間としてそこにいてほしかった。一視聴者としてのエゴだ。
それが、「また命の使い道を考えなきゃ」なんて、穏やかに未来のことを語るようになっていた。死ぬこともいなくなることもなく、生きる姿で、人間らしさを見せて終わってくれた。
これ以上ない結末だと思う。
舞台挨拶で石井真さんが「一騎の結末についてあともう一声、と言う気持ちがある」と仰っていたように、確かに欲がないわけではないが、それでも、あれほど優しく微笑む一騎が見られただけで、充分だ。
「一騎が物語に置いて行かれた」と石井さんは仰った。さすが、的を射ている。
初見で、一騎たち竜宮島の人々が美羽を犠牲にしようとしていることがわかったとき、一騎や剣司たちが恐ろしく見えた。おそらくAlvisは美羽が犠牲になる可能性は非常に高いことはわかっていたものの、島のミールに限りなく近い彼女の意思に歯向かうという発想がないし、これまでのL計画などと同じようにあくまで生き残ることを前提にした作戦だから決行したのだとは思う。私もファフナーはそういうものだと思っていたので、こそうしやマリスの怒りに共感・同調してしまった瞬間、頬をぶっ叩かれたような気がした。島が大好きなはずなのに、島の意見に賛同できないことが悲しかった。
でも、こそうしが一騎を越えて行ってくれたことで、従来の島の価値観自体が打ち破られて、悲しみも昇華してくれたように思う。こそうしには感謝が尽きない。
一騎が置いて行かれる、越えて行かれることこそBEYONDの核心。まさに一騎はファフナーという物語そのものだった。
こそうしが主人公になったことにちょっとした嫉妬を抱いていたのもあり、最終話まで見た時の一騎の描かれ方が腑に落ちたことでそういう点でも救われた。
こそうしと一騎が大喧嘩している中で、一騎に総士の囁きが聞こえる。あれはきっと、一騎と共鳴した総士の思念なんだと思う。ミョルニアの中で真壁紅音が共鳴し続けていたのと同じように、一騎の中に総士がいる。
その導きで、一騎はこそうしと戦って負けた。全力で倒しに来たこそうしを真正面から受け止めた。ある意味、こそうしは一騎と総士のふたりに勝ったと言ってもいいのではと思う。「僕は真壁一騎(と皆城総士)に勝ったんだぞ!」と一生言い続けてて欲しい。かわいいから。(彼にとって皆城総士は自分のこと以外に認められないので、あくまで比喩的な話だが)
一騎は総士の心と共にあるからこそ、あれほど穏やかに灯籠を受け取ることができたのではないかと思う。あの笑顔、器屋に帰ってきたときにも湛えていたけど、お母さんにそっくりで本当にかわいい。
祭りの夜に一騎と真矢が会話するシーンは、あまりの真矢のいじらしさに見るたび涙を禁じ得ない。
あれでこそ遠見真矢である。彼女の恋心を思うと切ないが、どうしようもなく、彼女らしさを全うしてしまっている。
そして、あれでこそ真壁一騎である。絶対あんまり深く考えてない。もしかして真矢も自分と同じで、外の世界を見たいと思ったりするんじゃないか、みたいな。気を利かせたつもりなんだと思う。一騎め。
コミカライズ9巻収録の短編AAAを踏まえた上で改めてあのシーンを観ると、真矢が楽園側で待っていてくれる(2人の間に川が流れている)のが、なんとも象徴的で唸らされた。
一騎と甲洋は旅立ちの朝、ファフナーに乗って島の上空を飛び交う。
島の景色に機体の影が走って、空気を震わせるあのシーン、ファフナーならではの珠玉の名場面だと思う。
懐かしい風景、青空、ミール…大気…機体そのものが映らないからこそ、守護神たる存在を強く感じる。
あの崖で、こそうしは一騎に何と言ったのか…
正解を知ることはきっとないけど、3回目を見終わった段階での私の想像は
「反省したら、帰ってこい」
である。
マリスに放ったのと同じ言葉。
こそうしはきっと、一騎が世界を見てくるのを、大馬鹿者が修行に出るような意味合いと捉えて送り出すんじゃないかと思ったのだ。
自分が偽りの夢から醒めようとしたように。
やはりファフナーは、対話してこそ味わい深くなる。
今回も友人たちと語り合って新たな視点をもったり、自分の思いを見つめたりすることができた。
そうして気づいたことがある。
私って実はものすごく、こそうしが好きだ。
あの快活さ、不器用さ。いつまでもそのままでいて欲しい。幸せでいてほしい。
また会いたい。必ず。
ひとり暮らしドルオタ女が中古マンション買ってリノベするまで#12最終回
中古マンションを購入し、リノベーションした我が家に移り住み始めて、1ヶ月が過ぎようとしている。
転居に伴う作業はほぼ終え、新しい環境にもだんだんと慣れてきた。
遂にダイニングテーブルも手に入れ、パソコンでの作業がものすごく快適になった。
というわけで、今回は後日談としていくつか小ネタを書いていこうと思う。
相見積もりを取らせろ
引っ越し業者の決定には、3か所から見積もりを取った。
リノベーション業者を決める時には具体的な見積もりを取らなかったので(既に過去の記事で書いているが、物件購入とリノベがワンストップの場合、相見積もりを取るのは難しいはずだ。十分理解した上での決断ではあった)、ある意味、反省を込めての行動だった。
見積もり依頼の電話をする段階で、各社ともに、電話に出た担当者に「他社と相見積もりを取るので当日即決はできません」と伝えておいた。というのも、以前の引っ越しで営業担当者に即決を迫られ、あまりの勢いに押し切られたことがあったからだ。
仮にA社、B社、C社とする。それぞれタイミングをずらして訪問見積もりに来ることになった。
最初に訪ねてきたのが、以前頼んだA社だった。「どんなに値段を下げられても絶対に即決だけはしないぞ」と心に誓って迎え入れる。
果たしてその営業担当者も、とんでもない押しの強さだった。来訪時、念のために再度「即決はしません」と伝え、承知していると言ったにもかかわらず、今この場で契約を取り付けようとゴリゴリに押してくる。
「まず、割引なしだとこのお値段になりますが」
溌剌とした青年は電卓を叩く。
「前回もご利用いただいたということで、勉強させていただいて、このお値段でいかがでしょう」
「わかりました。では、他社さんの見積もりと比較してお返事しますね」
「うーん、では、上司と相談させていただいてもよろしいですか」
「どうぞ」
電話の向こうの上司と何やら相談する様子を見せる。何が何でもその場で契約を取り付けて来いと言われている雰囲気もある。が、おそらくパフォーマンスだろうと思う。
「さらに、このお値段で、この場でお決めいただくことはできますか」
「いえ、他社さんとの相見積もりにしたいので」
このやり取りを、4~5回は繰り返しただろうか。話している最中にもどんどんと私の心の壁が分厚くなっていく。小一時間のやり取りで、私はすっかり疲れてしまった。
どんなに安かろうと、顧客の希望を聞いてくれないのは信頼性に欠けると思う。別に即決しなきゃいけないルールはないのに。そして当然こちらに担当者の営業成績を気にしてやる義理はない。
なんとかA社の営業にお引き取りいただき、その後に来たB社・C社と話をした。
B社は実にさっぱりとしていて、相見積もりの件にも「そのほうがいいと思いますよ」と言ってくれた。そのうえ、A社と同等にまでさくっと値引きしてくれたので、最終的にはB社に決めた。
C社はリサイクル業者でもあり、不要な家具を買い取ってくれる可能性があって見積もりをとった。しかし処分予定の家具にそこまでの値打ちがないため、おそらく自治体の粗大ごみ回収を利用したほうが安上がりになりそうだったので、やめた。
自ら相見積もりにしておいてこんなことを言うのもなんだが、お断わりの電話をするのは結構心苦しい。結果的にはいい判断ができたと思うので、やはり相見積もりは取るべきだと思った。
ハートフル・ムービング
引っ越し当日、B社から来た作業員の皆さんは、本当にいい人たちだった。
リーダーの方がとても気のいい人で、てきぱきと作業をしながらも、なんだかんだで私に雑談を振ってくるのだが
「お客様、収納上手ですね。今日僕たち、単身向けじゃなく大きめのトラックで来てるんですが、荷台が埋まりつつあります。この部屋にこれだけの荷物が収まっていて、しかも今日までに梱包し終わっているなんて、収納上手だし手際がいいですよ」
なんて話してくれた。
3人チームだったのだが、他の2人も明るいリーダーと時折軽口を交わしながら一生懸命仕事をしてくれた。引っ越し業者ならではの苦労話もいくつか聞かせてくれ、作業の間も楽しかった。
引っ越し業者にはきちんとした作業以上の物を求めているわけではなかったので、客として気持ちのいい時間になったのはありがたかったしお値段以上の事だったように思う。お礼の意味を込めてお茶を差し入れたが、安いものだ。
リーダーは、新居の様子を見て、驚いた様子で
「これ、全部ご自身でやったんですか?素敵な家ですね」
と褒めてくれた。私は咄嗟に
「いやいや、設計士さんがいて……」
と頓珍漢な答えを返してしまったが(当然、相手も私が全部DIYでリノベしたとは思っていなかっただろう。ヒロミじゃあるまいし)、苦労して手に入れた新居を褒めてもらえたのが素直にとても嬉しかった。
いろいろと思い出に残った引っ越しだった。
手続きあっちこっち
新生活スタートから数日後、夏休みを取って手続き巡りをした。
市役所、警察署、郵便局、銀行、そして法務局。それぞれの窓口の待ち時間で、思いつく限りの通販サイトやWEBサービスの住所変更をしまくった。
この時期ならではのこととして、新型コロナワクチン接種券の差し替えがあった。旧住所で交付されていた券は、転入後の役所で回収され、後日差し替え分が郵送されてきた。
あと、こういう機会じゃないとやらないなと思って遂にマイナンバーカードの交付申請もした。住所が変わると面倒だからこれまで避けてきたが、今後しばらくは引越しもないのでちょうどいいと思い、転入の窓口で申請を決めた。ほぼすっぴんで写真を撮る羽目になったのは計算外だったが、案外悪くない表情で撮れた気がする。(指名手配犯みたいな証明写真の身分証を使い続けるのだけは避けたい。)推しとのツーショで訓練したおかげかもしれない。
住民票の異動など、大抵の手続きは引っ越しのたびにやっているので慣れたものだが、問題は法務局だった。
マンションの登記内容のうち、所有者の情報を新住所に書き換えなければならないのだが、普通に司法書士に頼むと手数料だけで数万円かかるので、なんとかして自分でやってしまいたい。しかし書類の書き方を見ても、知識不足で、注意書きが何を言っているのかさっぱりわからない。
悶絶しながらも、電話で法務局に問い合わせながら、なんとか届出書を作り上げた。手数料も意外と高いので(所有している土地や家屋の数で決まる。私の場合は6千円した)郵便局で買った収入印紙を張り付けるのもかなり緊張した。
窓口で届出書を提出したところ、3か月以内に再度来局するようにと言われた。手続きが完了した旨の書類をもらう必要があるのだという。不備がある場合は2週間くらいのうちに連絡が来るとの話だった。
いつ連絡が来るかと心の隅でほんの少しだけびくびくしていたが、無事手続きは終了し、内容が書き換わった登記事項証明書を取得することができた。どこに出すわけでもないが、記念に手元に取っておく。
かなりの達成感。証明書はまるで勲章のように見えた。
新居正直レポ
新居でのお気に入りポイントは、やっぱり壁紙の色だ。
うっすらグレーにして大正解だった。眩しくなく、だからといって暗くもなく寒々しいわけでもなく、実にちょうどいい柔らかさをもった雰囲気になった。
それからキッチンの広さ。
作業場も広いし、幅広めの笠木がカウンター風で使いやすい。収納力も申し分ない。食洗機を深型にしたおかげでフライパンまでしっかり洗えて、もう元の生活に戻れる気がしない。最高である。
玄関を広めに作ったのもかなり快適だ。特に来客時に玄関が広いと動きやすいのでいろいろと助かる。(今はほぼ機会がないので残念だが。)
リビングの床の一部を仕切って、インナーバルコニー風にしたのもよかった。ベランダに出るためのサンダルを屋内に入れているので、雨ざらしになることなく、不快感がない。また、悪天候時にはとてもスムーズに植木鉢をしまうことができる。
逆に、ちょっと要らなかったも、というポイントは洗面所のフロント照明。ダウンライトの他にもうひとつ、正面の鏡の上についているのだが、ほぼ点けない。これの削減でいくらかコストダウンできたかも、と少し思ってしまう。
ウォークインクローゼット内の稼働棚が奥行40cmあるのは正直大きすぎたかなと思っている。主にアクセサリーを置いたりして使っているので、30cmくらいでよかった気がする。まあでもこれは今後の使い方次第だろう。
それと、新生活にカーテンは最初からあったほうがいいと思う。東側にある寝室のカーテンをケチって初動でそろえなかったおかげで、2~3週間、朝4時半に起床する生活を余儀なくされた。いくら私が朝型とはいえ、ちょっときつかったので、今はカーテンボックスに布団カバーを養生で張り付けて日よけにしている。いや早く買えという話だが。
ダイニングテーブル然り、引っ越しで一旦貯金がほぼゼロになった状態から、なんとか捻り出したお金で少しずつ身の回りの物を集めていっているので、「今月〇時間残業したからカーテン1枚ゲット!」みたいなクエストをこなす気分で生活している。美味しいもの食べたいし推しのサインも欲しいのに、なんという崖っぷち。とにかくこの自転車操業を脱するのが今後の目標である。
お金はないけど、後悔も一切ない。
居心地のいい部屋で暮らせる生活に、やってよかったなと心から思う。
家を買うの早くない?結婚諦めたの?と言われることがないわけではなかったが、私としては、「家買ったら○○できないと決めつけるのはナンセンス」だと思う。私の人生これからどうなるのかわかんない、ぶっちゃけ無限の可能性があるので勝手に選択肢を潰さないでほしい。
一連の出来事を通じて、自分の人生は自分で楽しくしていかなきゃいけないんだなとつくづく思った。それは私みたいに家を買うのでもいいし、趣味でもなんでも、どんな小さなことでもいい。ただ、楽しい毎日は誰かに提供してもらえるのを待っているよりも、自分で掴みに行ったほうが手っ取り早い。
世の中うまくいかないことだらけなので、逆に、何なら自分の思い通りにできるのかを見つけて、出来る限り実現していったほうがいいんだろうな、と思う。
さて、いろいろと書いてきましたが、これで本当のリノベブログ完結となります。
次からはまた雑感を綴るブログになるかと思いますが、気が向いたらぜひ読んでやってください。
改めて、お付き合いいただきありがとうございました。
ひとり暮らしドルヲタ女が中古マンション買ってリノベするまで#11
一介のドルオタ女が中古マンションを購入しリノベするこの連載も、ついに終盤。
今回は竣工確認、そして引き渡しについて書いていく。
竣工確認は6月中旬。当初の予定通りに迎えたこの日はあいにくの悪天候で、私は雨ガッパで武装し、とある荷物を抱えて現地へ向かった。
両手でなんとか抱えられるギリギリの大きさの段ボール箱。
中身はペンダントランプである。
広告で一目惚れし、少し背伸びして買った、程よいリゾート感のランプ。取り付けが少し手間なので、このタイミングで持ち込めば取り付けてくれるという話になっていた。
視界が悪い中をえっちらおっちら歩き、なんとかたどり着いた新居。
同席した営業担当がランプ運びを代わってくれるというので、ありがたく預け、私はいよいよ中へ案内された。
その時の動画を自分で撮っていたのだが、最初の数分は
「わーーーーーーーー!」
しか言っていない。
「わーーーー、わぁ、わーーーーうわーーーーーー」
くらいのバリエーションはありつつも、本当にそれしか言えていない。
それくらい感動的だった。
まず大正解だったのは、壁紙の色。
うっすらグレーのものを選んだのだが、躯体表しにした天井に馴染み、目に優しく、肩の力を抜いたモダンな印象に仕上がっていた。
それから差し色の緑。
メインの扉やキッチンの腰壁に同じ色を使ってもらった。末長く愛せるおしゃれさである。
こだわり抜いたキッチンは壮観だった。住設そのものも良いものを入れただけあって美しかったし、施主支給品のタイルの色合いもぴったり綺麗にはまっていた。
ひとつひとつ、選んだ好きなものたちがうまく組み上がって、予想以上の完成度で立ち現れてくれていた。
感激のため息を漏らしながらひとまわりしたあと、今回の本題に入った。
竣工確認では、引渡し前に、傷や設計図と違うところはないかなどの修正点を洗い出していく。
私もシンデレラの継母よろしく、隅々までチェックをしていった。
掠れや、もう少し頑張って欲しい塗装など、重箱の隅を突きまくる。
指摘してよかったなぁと思うのは巾木(床と壁の間に這わせる木材)である。通常の施工だとどうしても浮いてしまっているところがあったので、その隙間をうまく埋めてもらった。それをするのとしないのとでは見栄えが段違いだった。
ペンダントランプはというと、とりあえずその日は預けて、引渡しの時に脚立を持参して取り付けることになった。
てっきり職人さんが何かのついでにつけてくれるのかと思っていたら、設計担当が親切でやってくれることのようで、何となく申し訳なく思いつつもありがたかった。
そしてついに、引渡しの日を迎えた。
竣工確認で指摘した修正点を全て綺麗に仕上げなおし、正真正銘、私のための新居が手に入る。
最悪なことに、この日は前日に酒を飲みすぎて二日酔いだった。(仕事の山を越えたので、ひとり居酒屋で晩酌したのだが調子に乗りすぎた)
会う人みんなに「すみません二日酔いです」と告げては爆笑された。
設計担当、営業担当、物件担当が集まって、ピッカピカの新居の雰囲気を堪能する。
竣工確認のあとにカーテンの取り付けもあったので、その仕上がりも確認してまわった。キッチンとクローゼットの間の通路に真っ白なカーテンが揺れており、壁のグレーとのコントラストがなんとも綺麗だった。
設備の取扱説明書などの書類や鍵の引渡しと、引き渡し完了のサインを終え、私がアンケートに回答している間、設計担当が中心となってペンダントランプを吊り下げてくれた。
電球を取り付け、オレンジ色の光が灯ると、どよめきが広がった。
ぶっちゃけ最高だった。
少しエキゾチックなテイストなのだが、下手に浮くこともなく、絶妙なインパクトがあって映える。インテリアの主役になってくれること間違いなしだった。
こうやって書いてきて自分でも不思議なのだが、内装の色合いはモダンな雰囲気で、素材は木やアイアンでちょっとインダストリアル風、なおかつメインの照明はリゾート系。かなりごった煮にしているのに、まとまりは良いのである。
まさに唯一無二の自分の部屋が完成したように思えた。
設計担当者曰く、リノベの設計をしていると本当にひとつも同じ例がなく、ひとつひとつが違うものに仕上がるから面白い、とのことだった。
そんな彼がお気に入りポイントとして挙げたのは、キッチンの角だった。腰壁とタイルとキッチンの本体の色が集約して見えるそのポイントに、こだわりが詰まっていて好きなのだそうだ。満足そうな横顔。楽しんで仕事をしてくれて私も嬉しかった。
ひととおり作業を終えて、記念撮影をした。
その頃にはもうだいぶ回復していたので、浮かれたポーズで何枚か撮った。乗っかってくれるリノベ業者の皆様、愉快すぎる。
そして最後には、お祝いのプレゼントまでいただいてしまった。客の全員に対してここまでしているのかは謎だが、私の好きなコーヒーやお風呂グッズを選んでくださって、心遣いが本当にありがたかった。
これまでは工事中の新居に私が訪問して、帰り際は設計担当者が現地に残るというパターンだったが、最後はそれが逆転する。
本格的に持ち主となった私が、リノベ業者の皆様をお見送りするのだ。
何度も感謝を告げながら、玄関口で全員の背中が見えなくなるまで見送った。
ついに、という実感が湧く瞬間だった。
一人になった部屋の真ん中で、大の字になり、天井を見上げた。
緊張が途切れて二日酔いのだるさが少し戻ってきていた。
それでも、素晴らしい仕上がりの空間に、気持ちよく酔うことができた。
以上が、ひとり暮らしドルヲタ女が中古マンション買ってリノベするまでの流れである。
書き始めた頃は本当に実現するか自分でも半信半疑だったが、思った以上に早くここまで辿り着けたのは、読んでくださる方の反応がモチベーションとなったように思う。
本当にありがとうございました。
次回は引っ越しなどの後日談や、細々としたネタを書くので、また気が向いたら読んでいただければと思う。