ろこのかたこと

たまに役者をやる会社員の日常

渇き

今日は仕事をしながら、水とコーヒーをカップ一杯ずつ飲んだ。

 

8時半の始業からしばらくの間は、口を湿らせることすら忘れ、ひたすらエクセルと向き合っていた。私はエクセルとあまり仲良くない。対話には時間を要する。去年の今頃、同じように触れていたはずのマクロをいじくりながら、うんうん唸っていた。

 

10時くらいになって、ようやく席を立つ。

常日頃からデスクに置いている、蓋つきのマグカップに、水道水をざっと注ぐ。

最近よく雑誌などで目にする美容法で、水をよく飲む、というのがある。1日最低2リットル、多い人だと3リットルは飲むらしい。代謝を促進し、肌つやが良くなるという。

実にお手軽と思い、私も実践しようと意気込んでいたものの、1日2リットル超のペースで水を飲むのはこれまでの感覚から言うとかなり多い。カップ1杯を200ミリリットルとすると、毎時間一杯ずつ飲んだとしても勤務中だけでは目標に届かない。

しかも以前は、水ではなく、1日3杯コーヒーを飲んでいた私だ。知られた話だがコーヒーには利尿作用があるので、逆に脱水を招く。とりあえず意識的に水分を取ろうと、コーヒーは1日1杯に制限することにした。

 

ではその格別の一杯をいつ楽しむか。

最近は昼休みの食後に煎れるのがお決まりになっている。

弁当を食べ終えたら、私は給湯室へ行き、インスタントコーヒーをさらさらとマグカップへ入れて湯を注ぐ。粉の量は目分量だが、濃いめが好きなので多くしがちだ。

香ばしさに心も解れるのを感じながら、自席へ戻り、少しずつ口へ含む。舌で転がす。

半分ほど味わったところで、私は昼寝を始める。机によだれを垂らさないようにハンカチを敷いて、うつ伏せになる。

コーヒーを飲んでから軽く昼寝をすることで、頭が冴えて仕事が捗るというのは、我が身を持って証明済だ。このルーティンを忘れた日には、午後は眠くて仕方がない。

 

さて、ひとときの安らぎを経て、午後の仕事が始まる。

後輩に指示を出しながら、自分は山のように積み上がった作業をこなす。

普段ならば残りのコーヒーも早々と飲み終わって、また水を汲みに行くのだが、今日に限っては終業までカップに半分のそれすら飲み干せなかった。

繁忙期の只中にあれば、そんなものだ。

シンクに飲みきれなかったコーヒーを流し、小さくため息をついた。飲み口を擦って、中に溜めた水をくるりと回して流し、水滴を切る。蓋をずらして机の隅に置いておけば、翌日にはきちんと乾いている。

 

同僚に軽く挨拶をし、職場を出た。乾ききった口内は結構な臭いがするに違いない。マスクで蓋をしたまま、帰路に着く。