ろこのかたこと

たまに役者をやる会社員の日常

絶対からだ資本主義

 高校時代は携帯サイト全盛期で、私も例に洩れず、インターネット上に小さな自分の城を持っていた。

 二次創作小説やイラスト、写真を載せたりもしたが、そういえばほぼ毎日ブログを更新していたと思う。よく書くネタがあったな、マメだったな。(実際、書いていた内容は大したことではなかったはずだ。定期テストのこととか、好きな漫画のこととか。)

 ブログとは別に、つぶやきを載せているページもあった。自分しかいないツイッターのホーム画面のような。大学合格の喜びも、真っ先にそこに書きなぐったのを覚えている。

 今はブログというと、ここくらいである。日記のように毎日更新してみようかとふと思ったが、そこまで気力は続くかというと自信はない。いよいよツイッターが使えなくなったらそうするかもしれない。自分の脳内を書き散らして放流する場所は絶対に必要だ。

 

 前回の記事の最後で、次はクラフトビールについて書くと記したが、ツイッターで気まぐれに次回記事のアンケートを取ったところ、意外にもがん検診の顛末に票が集まった。(そもそもそんなアンケートに応じてくれる人が10人もいてくださることに感動しました。本当にありがとうございます。)

 なお候補にはクラフトビールとがん検診のほか、ファフナーの感想と今年やりたいことリストがあり、それらもいずれ書いていくのでぜひ読んでいただけたらと思う。

 

 というわけで、がん検診の顛末。

 そもそも話の発端は昨年11月に遡る。いや、4月といったほうが正しいか。

 新年度に入ってしばらくのころ、住んでいる自治体から子宮頸がん検診のお知らせが届いたのである。

 

 30代以上で子宮頸がんのリスクが格段に上がるというのは一応知っていた。

 薄桃色のはがきをよく読んでみる。市の補助によって、1,000円で検査が受けられるという。対象は30代以上の女性で、生まれた月の偶数・奇数によって隔年で順番が来る仕組みだった。(もちろん制度は自治体によって異なると思うのでご留意いただきたい。)

 自分もいよいよそういう年なのだと、自治体からのお知らせで自覚させられる。市民サービスが用意されている安心感と、老いに対する複雑な気持ちがないまぜになった。

 一人暮らしの身で、健康管理は最重要課題だ。不調を感じた時の対処はもちろんだが、定期的なチェックを怠らないのもまた大切だろう。

 よし、そのうち行こう。

 そう思って気が付くと半年が経った。時の流れの速さは凄まじい。

 

 11月、無事に32歳の誕生日を迎えた。

 またひとつ大きくなれてよかったよかった、そういえば子宮頸がん検診受けなきゃなーーと思い出して例のはがきを引っ張り出すと、補助が効く期間は限られていることに気づく。ちょうど11月末が期限だった。

 こうしてはいられないと、重い腰を上げて最寄りの婦人科へ行った。受付ではがきを出し、検診の希望を伝える。予想以上に混雑していて、2時間は待った。本でも持ってくればよかったと後悔した。その割に、診察時間は短い。病院とはそういうものである。

 

 婦人科に行ったこと自体は何度かあった。数年前になるが、カンジダを発症した時だった。初めての婦人科は不安だったし、やはりというか、婦人科検診台への抵抗感が少なからずあった。そりゃ、当然、脚を開いて見せる以外に方法がないのはわかるので、もはや自分との闘いだった。

 今回もあれだよなあ、と憂鬱になりそうになるのを殺しながら順番を待つ。必要なことをちゃんとやろうとしている自分えらいよ、かっこいいよ。先生もプロなんだから安心してまな板の上の鯛になりな。繰り返し念じた。

 

 実際、検診はサクッと終わったのだが、その際にポリープが見つかった。

また?と驚く。カンジダで受診したときも、同時にポリープを取った経験があったからだ。

 曰く、何度でもできるときはできるらしい。今回は検診だけだからとポリープは後日処置することになった。

 検診の結果については直接聞くか郵送するかを選ぶことができた。特に問題もないだろうと思ったので、郵送をお願いした。

 

 そして2週間後。果たして封書が届いた。

 仕事に追われて検診を受けたことも早速忘れ去っていたので、おお、そういえば受けたっけとなんの気なしに開封

 目に飛び込んできた情報に首を傾げた。

『要精密検査』

まさかの……?

『中等度異形成』

……とは、一体?

 初めて聞く言葉に少なからず動揺して、よくないとは思いながらもggった(がんに限らず病気のことを素人が適当に調べてもろくなことがない)。基礎知識がないせいで、何がどういう状況なのかは、わかるようで全然わからなかった。

 それから民間の医療保険の加入状況を確認した。がんだったらどんな保障きくんだっけ、とりあえず入院したら何万円かもらえるんだっけ?

 

 まだ正式にがんと宣告されたわけではないことくらいはわかるので、半端にうっすらとした不安に襲われながらも、とにかく次の休みに、検診を受けた病院へ再検査に向かった。

 さほど待たずに診察室に入れたが、入って即、「紹介状を書くね」と言われた。

「中等度異形成って、すぐに治療とかの話じゃないんだけど、もっと大きな病院で再検査したほうがいいから」

普通じゃないっぽいのにすぐに治療じゃないってどういうこと?!混乱して漏れそうになる言葉はひとまず飲み込んで、うなずく。

「ポリープは行った先で取ってもらいな。今やると出血しちゃって診づらくなるから」

「わかりました」

自分の体の微妙な状態を受け止めきれずにもやもやしながらも、受け取った招待状を握りしめ、その足で隣町の病院へ向かった。 

 今度は数時間待った末に、紹介状の内容を確認した医師と対面する。最初の検診の時と同じように検体を採取し、同時にポリープを切除してもらった。

 こちらの気を紛らわすためか、施術の間に声をかけられる。

「子宮頸がん検診は今回が初めて?」

「はい」

「初めてで要精密になっちゃったのかあ」

「はい……」

「なんか変だなーって思うことなかった?」

「言われてみればあったかもしれないです……」

「そっかぁ」

医師の声は努めて穏やかに聞こえるようにしているように思えた。

 そう、言われてみれば変だなと思うことが、少し。生理周期は安定しているほうなのに、妙なタイミングで出血があったりとか。

 でもそれは、今になって思えばポリープのせいだったのだ。相当な大きさのものが摘出されたらしい。直接見てはいないが、医師の言葉を聞く限り、かなりひどかったようだ。

「検査結果は2週間後に出るからね」

またお預けなのか。当然のこととはいえ、この不安を抱えたまま過ごすのが少しつらかった。

 

 そして2週間後。

 結果は問題なしだった。

 なかなか理解が追い付かないので、改めて状況の説明をお願いする。

 詳しい話は、私自身が医師ではないのでブログに尤もらしく書くことは避けるとして、つまり「中等度異形成」というのは細胞ががんになる手前のグレかけた状況らしい。

 放っておくとがん化するかもしれないので、監視して、もし悪化したらすぐに処置できるように構えておくのだそうだ。

 精密検査ではなく、比較的簡単な検査を何度か繰り返す必要があるらしい。当面は2~3か月に一度。安定していれば半年に一度。

 話を聞いてまず心配になったのは検査代だった。精算してみたところ、検査するのと結果を聞くを合わせて、一回当たり2,000円程度になった。

 

 自分の状況を理解するのに私は一度の説明では足りなくて、2度目の検査(つまり最初の検診の約半年後)にも同じような解説をお願いした。そこでようやく自ら質問もできた(それまでは何が疑問なのかすらまとまらなかった)。

 まず日常で気を付けるべきことを聞いたところ、特になかった。

「強いて言うなら、面倒くさがって定期検査に来なくなることが一番まずいんだ。目を離した隙にがんが進行しちゃうっていうのが結構あるから。ちゃんと病院に来てくれれば問題ないよ」

 次に、ワクチン接種の注意点を訊ねた。というのも、精密検査の後にインフルエンザのワクチン接種を受けて、問診票にどう書いたものか迷ったからだ。私は今、健康と言っていいのか?

 これについても医師は特に気にすることはないとのことだった。

「内科の先生が見てもピンとこないと思う。特に気にせずワクチン受けて大丈夫だよ」

そういうものなんだ。

 だとするとーー私はいよいよ自分の状況がわからなくなった。自分の体で異変が起きているらしいのに、やれることがない。診断を見た時の衝撃や不安な気持ちに対して、その後の対応が地味というか、不釣り合いな気がしたのだ。のうのうとしてていいのか?そうこうしている間に本当にがんになってしまうんじゃないか?という焦り。

 でも、結局は医者を信じるしかない。

 特に指名せずに通院していたので、毎回診てくれる先生は違う方だったが、幸い皆とても親切で優しかった。先生たちの言うことをきちんと聞いていればまず大丈夫なのだろうと考える。暗い気持ちに振り回されたくなかった。

 

 最終的に、検査は、最初の精密も含めて全3ターンで終了した。

 最後の診察で医師曰く

「あのポリープが異形成だったんだろう、ってこと。摘出できたから、他のところは問題ない。今後はまた2年に1回の検診受けて、何かあったら来てね」

とのことだった。

 先述の通り、出だしのころは次第に間隔を広げて検査を続けていくような説明を受けていたし、長期戦を覚悟していたので、なんだか拍子抜けだった。

 念のため、エコー検査もやってもらった。子宮頸がんの検査では及ばないところも直接診てもらうことができる。

「うん、大丈夫ですね」

ほっと胸を撫で下ろす。

 こうして私の婦人科通いは無事卒業となった。

 

 これは医師に直接言われたわけではないが、私の場合、ポリープができやすい(少なくとも2度の前科がある)ことを自覚しておかなければならないのかもしれない。子宮頸がん検診で見つけてもらわなければ、あのポリープがさらに肥大化して、それこそ取り返しのつかない悪性の何かになっていた可能性があるのだ。

 私は女性の体に生まれておきながら女性特有の症状についてまだ知らないことが多いし、そもそも自分のことなのに無頓着になりがちでもある。悪い癖だ。

 些細なことであっても、なんか変だと思ったらスルーしない。これがなにより重要なのだろうと、肝に銘じる機会になった。

 

 これを読んでいる方も、どうか、ご自愛ください。ただでさえままならない人生、できるところはなるべくコントロールしていこう。

 まずは自治体のホームページなどで、ぜひ、使える制度のご確認を!